アジアで戦争が起こる? |
さて、今日はウェブ上でかなり話題になっている「アジアで戦争が起こる論」について。
著者は当ブログでも何度か紹介したことのある、フォーブス誌のコラムニスト、ゴードン・チャンです。
例のごとくポイントフォームで。
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●先月9月のはじめに中印国境を警備していたインド側の国境警備員が中国側に撃たれたという噂があったが、インド側はこれを否定している。
●この地帯における中国側の活動が増えてきており、インド側のある分析では年間300回ほど中国側の不法侵入があるという。
●しかしインド側はあまりことを荒立てないようにしているという。
●冷戦中には「核を持った国同士は軍事衝突を起こさない」とよく言われていたが、そんなことはない。インド・パキスタンの例があるし、これからインドと中国もあり得るかもしれない。
●とくにアジアには多くの火種が残っている。そうなると気になるのは「アジアでは戦争が起こる?」という疑問だ。
●あいにくこの地域の大国たち(中・印・日・露)は仲が悪いし、互いに未解決の問題を抱えている(たとえば日本とロシアは北方領土問題のおかげで第二次大戦後の平和条約を締結してない)
●ヨーロッパでも大戦があったが、その後はいろいろな制度機関をつくってなんとか安定している。しかしアジアにはそのようなものがなく、戦いの後の不満が残っている。
●APECもASEANも東アジア共同体も名ばかりで実体に欠けるものばかり。
●そのような実質的な制度機関がないので、アメリカがこの地域の平和を守ってきた。
●アメリカはこの地域に二つの錨(日米同盟と米韓同盟)の他に、シンガポールなどと関係を強化することでこの安定をはかってきた。
●ところがアメリカはこの地域の海洋関連の紛争の解決にはあまり努力していない。
●たとえば南シナ海での紛争は六カ国(フィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、中国)の間で争われており、中国はこの中でも最も大きな海域の領有を主張していて、ここをまるで自国の内陸にある湖のように扱っている。
●中国政府は陸の国境ではかなり柔軟に対応しているのに、海の国境では断固とした態度で対応している。
●この理由について多くの人は海底のメタンハイドレートの存在を指摘するが、実は本当の理由は海底資源ではなく、彼らが戦略的に重要だと見る「シーレーン」の確保にあるのだ。
●経済とはちがって領土争いというのはゼロサム・ゲームなのであり、紛争に発展しやすいのだ。
●アメリカ側はこれまでこの海域における中国のあからさま主権の拡大を気にもとめておらず、この海域で何度か船や飛行機がトラブルを起こしたが、それも見逃して来ている。
●このようなアメリカ側の行動の背後には、「中国が経済的に発展してくれば、国際的な規範や法などに従うようになる」という考えがあるのは間違いない。
●しかし実際のところ、中国は発展すればするほど攻撃的になってきており、他からあまりとがめられないことをいいことに大胆な振る舞いを見せるようになってきている。
●その一例が去年のエクソン・モービルを脅した事件である。これはエクソン側が南シナ海でベトナムの石油公社と共同開発をしようとしたためだ。
●中国はその後に似たような形でBPとベトナムの開発話に対しても脅しをかけている。
●これまでアジアで紛争が起こらなかったのは、貿易によってアジアが結びついていたからだ。
●ところが中国の輸出が去年の11月からどんどん減り続けており、それと同時に輸出も減っている。
●それが原因で、最近になって中国との輸出競争に勝つために東アジア諸国の間で通貨競争が起こり始めている。
●危険なのは、経済が内向きになっていると同時に、アジアのリーダーたちが互いに協力することを忘れてしまうということだ。
●アジア諸国の制度的な結びつきはまだ弱いし、互いに対する不満は増加している。この次に何が起こるかは誰にでも予想できるものだ。
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ということです。基本的に悲観論ですな。
レインやリンドの論文との共通する「前提」や「シナリオ」なんかを考えてみるとけっこう興味深いです。
国境問題がゼロサム・ゲームであることについては、拙訳『進化する地政学』の中のユワン・アンダーソンによる「地政学:戦いの場としての国境」という論文をお読み下さい。とても参考になります(笑