リンドの「パックス・アメリカーナの終焉」 |
さて、先日のレインの「パックス・アメリカーナ終焉論」に引き続き、今回は園田さんに教えてもらったリンドの似たような内容の論文を。
マイケル・リンドと言えば元ネオコンという珍しい肩書きをもつ中堅のリベラル派の知識人ですが、彼が数日前にレインと似たようなテーマで、しかもやや違うアプローチから、とても興味深い論文を書いておりましたので、またポイントフォームで紹介しておきます。
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The end of the Pax Americana?
Obama has the chance to end our Cold War hangover, and start an era where the U.S. is not the sole global policeman
By Michael Lind
●世界経済危機が進む中で、世界政治は急速かつ劇的な変化を迎えている。
●オバマ政権はブッシュ時代からのさまざまな分野で政策の転換を迫られている。
●オバマ大統領は世界と協力するという決心を表明したが、これは彼にとって「ポスト冷戦時代」を完全に終わらせて、第二次大戦後はじめてグローバル政治を本格的に取り仕切ることができるチャンスだ。
●フランクリン・ルーズヴェルトは戦後の世界は連合国の列強が協力して世界管理をしていくことを望んでいたが、これと同じことは大国の経済的な取り組みによって実現できるかもしれない。
●ところが冷戦中にアメリカはこのような取り組みを捨てて、アメリカの覇権(もしくは優越)という戦略を採用した。
●アメリカの冷戦時代の覇権戦略は二つの柱、つまり①二重の封じ込め、②一方的な自由貿易、によって成り立っていた。
●「二重の封じ込め」とはソ連と共産中国を封じ込めつつ、民主化された西ドイツと日本を再軍備して暴れないように衛星国として封じ込めておくというものだ。
●西ドイツと日本から不満が出ないようにするため、アメリカはこの二国の安全を保障すると同時に、彼らに市場を開放して輸出させた。
●冷戦時代にアメリカはこれらの国々(とくに日本、韓国、台湾、そしてアジア諸国)の重商主義的な貿易政策に目をつぶって自国の市場にアクセスさせた
●つまり冷戦時代の五十年ほどの間、両党のリーダーたちはアメリカの産業を犠牲にしてこれらの国々をアメリカの同盟システムの中に引き止めてきたのだ。
●実はアメリカは冷戦終結直後にルーズヴェルト/ケインズ的な世界秩序を構築しても良かった。
●ところがクリントンとブッシュ(息子)は冷戦時代のシステムを永続させる方向を目指してしまったのだ。
●冷戦終結でソ連がいなくなると、中東、ヨーロッパ、そして東アジアは、アメリカの「影響圏」に入ることになったのだ。
●ポスト冷戦時代のアメリカの政策は、冷戦時代のシステムの単なる「再利用」である。
●日本やドイツが零戦や機甲師団を造るかわり市場を開放したのと同じく、今度は中国を手なづけるために市場に組み込んだ。
●アメリカの外交エリートたちにとって、アメリカの優越状態を維持することは二つのスパイラルの悪夢を防ぐためにあった。
●一つは「軍拡競争のスパイラル」であり、もう一つは「保護主義のスパイラル」である。
●(ギルピンたちの言う)いわゆる「覇権安定論」によれば、「世界平和」と「国際貿易」は国際システムの中に頭一つ飛び抜けた力を持つ国の存在(=アメリカ)が必要であることになる。
●この理論から言えば、世界の平和と経済発展のためにアメリカは永久に他の大国を(直接および間接的に)封じ込めておかなければならなくなる。
●「パックス・アメリカーナ」の支持者にとってはこの体制の「敵」の脅威を誇張しなければならなくなるのであり、この脅威の誇張には二つのやり方がある。
●一つ目は、ロシア/中国/イランのような国が「侵略的である」と決めつけることだ。そうなるとアメリカは「受け身である」となる。
●もう一つのやり方は、敵を「独裁体制の枢軸」であるとしたり、「独裁的な資本主義国だ」として、新しいイデオロギー戦として描き出すことだ。
●私の経験からいえば、アメリカのほとんどの外交エリートたちは、アメリカの世界支配が崩れると世界には無秩序と戦争が発生すると本気で信じていた。
●ところが現在の戦略を我々のリーダーたちは国民にうまく説明できない。たとえば以下のようなやりとりを想像してほしい。
市民:なぜ我々の若者はイラクで命を落とさなければならないのですか?
国家指導者:サダム自身がアメリカにとって脅威だったが、彼はドイツやアメリカに流す石油を確保するために必要なアメリカのペルシャ湾の覇権に対する脅威でもあったのだ。もしこのような安全保障がないと軍拡競争が地域紛争につながり、やがては第三次世界大戦につながるからだ。
市民:なんじゃそれ?
●アメリカの貿易政策に関する次のようなやりとりも想像できる。
市民:他国が我々の産業をズルして消滅させようとしているのに、私たちはなぜこれに報復できなんですか?
国家指導者:アメリカが他国の重商主義政策に報復すると、それがますます他国のズルを助長してしまい、それが貿易紛争につながって新たな世界不況を発生させ、それが第三次世界大戦につながるからだ。
市民:なんじゃそれ?
●このようなやりとりを考えるとわかるように、アメリカの戦略を正直に話してしまうと多くのアメリカ国民は激怒するはずだ。
●しかしそうなるとまずいので、どうしても以下のような嘘の説明をするようになる。
市民:なぜ我々の若者はイラクで命を落とさなければならないのですか?
国家指導者:狂った独裁者がテロリストに爆弾を渡したり、もしくは爆弾をミサイルに積んで海を越えてアメリカ撃ち込んだりすることによって、アメリカにいる君や君の家族を爆破しようとすることを防ぐためだ。
市民:他国が我々の産業をズルして消滅させようとしているのに、私たちはなぜこれに報復できなんですか?
国家指導者:なぜならすべての経済学者が自由貿易は常に双方にとっての利益であり、保護主義は常に君や君の家族の失業や貧困につながるからだ。これに疑問を差し挟むような君は、原始人の知能しか持っていないアホだ。
●実は覇権安定理論の支持者でも、公共の場では正直に語ることができていない。
●たとえばマンデルバウムは著書の中で「おそらくアメリカの世界的な役割というのは、自分たちの政策をあまり詳しく見ないことによって果たされている部分がある」と言っている。
●ワシントン政府が冷戦時代の戦略から脱却して「二重の封じ込め」をやめ、新しい秩序の構築に動けるチャンスがあるかはまだわからない。
●たとえばG20は国連安保理の代わりの役割になるかも知れない。この会合から生まれた去年からの経済刺激策は見物だったからだ。
●オバマ政権はもうアメリカが中国をはじめとする世界の輸出国の市場にはなれないことを宣言している。
●オバマ大統領はロシアと中国との関係改善に動いている。
●彼が本当に新しい世界秩序づくりを推進していくことを期待しよう。
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レインとの見方の微妙な違いに注目しながら読んでみると面白いです。
それにしても「アメリカは日本を衛星国に置いておくことによって封じ込めている」とは随分と正直に書きますね(苦笑