レインの「パック・トゥー・ザ・フューチャー」論 |
最近の国際関係の動きはけっこう激しく、ウィリアム・サファイアが死んでイギリスでもけっこう報じられたり、イランのミサイル発射や去年のグルジア紛争でどちらかと言えばグルジア側に不利な調査結果をEUが出したこと、またアフガニスタンネタやアメリカの国内政情不安ネタなどが盛りだくさんです。
しかし私の身は一つですし、ブログを書く時間も限られているので、今日は「パックス・アメリカーナ」に関する久々のIR(国際関係論)ネタを。
リーマンショック以来の世界経済不況や、中国をはじめとする新興国の経済復活などが注目され、とうとうG8ではなくG20のほうにパワーバランスが移って来たと感じられる昨今ですが、これに関連してネオクラシカルリアリスト(新古典現実主義者)であるテキサスA&M大学のクリストファー・レイン教授が、アトランティック誌の書評コーナー担当で相棒のベン・シュワルツと興味深い意見記事を書いておりましたので、例のごとくポイントフォームで紹介します。
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Twilight of Pax Americana
By Christopher Layne and Benjamin Schwarz
●第二次大戦後に出現した国際秩序は「パックス・アメリカーナ」と言える。
●これはアメリカが主導して維持する、国際政治の安定と、グローバルに開かれた経済によるシステムだ。
●ところがこの「パックス・アメリカーナ」は、とくに去年発生した世界経済の行き詰まりのために急激に変化した。
●この地政学的変化の中心にあるのは中国の爆発的な経済発展だが、これはいままでの秩序の土台であったアメリカのパワーが相対的に落ちることを意味するから注目されるのだ。
●国際的なパワーシフトというのは、段々とゆるやかに起こるというよりも、突然前触れもなく起こるものだ。
●たとえば1920年代の世界恐慌はアメリカがいきなり力をつけたということではなく、むしろ他がつぶれて、結果的に相対的なアメリカのパワーの上昇を速めたのだ。
●現在のアメリカの財政状態から考えれば、これからアメリカは難しい選択をせまられることになる。
●オバマ政権と連銀は市場にドルを急激に供給しはじめた。これは短期的にはしかたがないのかも知れないが、長期的には財政赤字がひどくなり、ドルの信用にも赤字が点灯する。
●国際基軸通貨としてのドルの信用は、第二次大戦以来、世界におけるアメリカの地政学的役割を下支えしていた
●ところがドルの信用にかげりが見えてきたとたんに、アメリカに一番金を貸している日本と中国はさっそくそこから抜け出そうとする動きを見せている。
●中国はドルに代わる基軸通貨を提唱しはじめ、日本の鳩山首相はドルにかわるアジア統一通貨をとなえはじめている。
●アメリカはドルを守るためにインフレをコントロールする必要があるが、それには財政縮小、税率上昇、金利上昇などの手段を組み合わせて使うことになるが、税金と金利をいじるのは政治的に無理なので、そうなると政府の財政支出を減らすしかなくなる。
●そうなると軍事費が劇的に減らされることになり、海外で展開する軍の規模も縮小される。
●1945年以来、パックス・アメリカーナは世界経済の相互依存とグローバル化を可能にした。
●ところが基本的に国家は利益を追求する存在であるため、これからアウタルキー的な動きを見せ始めるはずだ。
●本当の意味でグローバルで平等な経済は実現が難しいため、歴史的には「覇権国」の存在がその他の国家のアウタルキー的な経済の追求を防いでおり、アメリカはこの戦略を1940年代から追求していた
●冷戦後は巨大な軍事力を持つことでアメリカは覇権を維持していた。
●アメリカは経済面でもこのような役割を果たしていたが、今年に入ってその役割を果たせないことを認め始めた。
●アメリカは経済力も落ちるので軍事力も落ちる。そうなると世界のパワーバランスも崩れることになる。
●そうなると劇的な変化がおこり、新興国は資源・コミュニケーションラインの確保、影響圏の確立、そして軍拡競争を起こし始める。
●戦略地域でのライバル関係も復活し、中国は中東やアフリカや東南アジア、それにインド洋なので動きを活発させている。
●中国との競争に刺激された日本も「再・民族化」をはじめる。日本はランド研究所の報告にあるように、アメリカを信頼に足る同盟国と見なさなくなるかも知れない。
●そうなると日本は結果的に憲法9条を破棄し、軍事力を強化し、核武装にまで行くかもしれない。
●もちろんパックス・アメリカーナの崩壊が世界貿易の突然の停止につながるわけではないが、それでも結果的には世界中の国家同士は安全保障や経済分野で競争を開始することになる。
●したがって世界経済の状況は、1945年頃のパックス・アメリカーナが誕生した自由貿易経済の状態よりも、むしろ1930年代のころに似てくるはずだ。
●パックスアメリカーナの終焉は,資本主義の危機の到来を告げるのだ。
●今後の非グローバル化時代はナショナリズムと重商主義、地政学的不安定、そして大国同士の競争によって彩られることになる。
●国際政治は長い休暇を終えて、また「(国際関係が不安定な)未来に帰る」ことになる。
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やはりこの人は非常に「世界観」のある、地政学的な(大戦略の)分析をしますね。
最後の締めの言葉で分かるように、これはやはりミアシャイマーが冷戦直後に発表して有名にした「パック・トゥー・ザ・フューチャー」を意識して書かれたものです。
そういえばレインはミアシャイマーとけっこう仲良しで、自身の初の単著の中では「原稿をよく見てくれて感謝している」みないなことを書いておりました。彼の理論(地域外覇権論)もミアシャイマーの「オフェンシヴ・リアリズム」の修正・発展版です。
この論文はこれから欧米のIRのクラスで必読論文になるかも?